大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

秋田地方裁判所 昭和23年(行)1号 判決 1955年2月23日

原告 三浦雷太郎 外一名

被告 秋田県選挙管理委員会

主文

原告等の訴を却下する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

原告三浦は被告委員会は原告等が昭和三十年二月二十七日行われる衆議院議員選挙の議員候補者として公職選挙法第百六十八条第一項の規定により被告委員会に提出した同月十二日付選挙公報掲載申請書を受理しなければならない。訴訟費用は被告の負担とする旨の判決を求めその請求の原因として、原告等は来る昭和三十年二月二十七日行われる衆議院議員選挙の立候補者であるが、被告委員会は法律に基き選挙公報掲載申請書を同月十二日午后五時までに提出するよう原告等に通知した。右に基いて原告等は同月十二日午后五時被告委員会事務室に行き選挙公報掲載申請書を提出したが被告委員会は時間がおくれたといつてこれを受理しない。仮に右申請書の提出が、右午后五時におくれたとしても、おくれたのは僅々十秒前後にすぎないのであるから選挙における公正な運動方法として認められた選挙公報制度の重大性及び被告委員会の室の構造等を綜合考察すれば、被告委員会は当然右申請書を受理すべき職責を有するものといわなければならない。よつて本訴請求に及んだと述べた。

原告鈴木清は本件口頭弁論期日に出頭しないが陳述したものとみなした同人提出の訴状及び請求原因補充申立書によれば同人の陳述は原告三浦の前記陳述と同一であるのでここにこれを引用する。

被告訴訟代理人は主文同旨又は請求棄却の判決を求め、本案前の主張として、原告等は昭和三十年二月十二日午后五時被告委員会に提出した原告等の選挙公報掲載申請書を被告委員会が時間におくれたといつて受理しなかつたのは違法であるという理由で被告委員会に対し右申請書の受理を求めているのであるが、公職選挙法においては投票にいたるまでの選挙の管理執行に関する個々の行為が、法の規定に違反したとしても個別的に違反を理由としてその行為の効力を争うことを認めた規定はなく、このような場合はそれがひいて選挙の結果に異動を及ぼすおそれある場合に限り選挙終了后においてその選挙の効力を争う途が与えられていることは同法第二百四条第二百五条の規定により明らかであるから選挙終了前において個々の選挙管理手続の違背を主張する本訴は不適法として却下さるべきものである。

仮に右主張が理由ないとしても、行政庁に対し新な行政処分を命ずる裁判を求めることは三権分立の精神に照らし許されないものというべきところ、本訴が行政庁である被告委員会に対し選挙公報掲載申請書の受理を求めるものであることは原告等の主張自体により明らかであるので、この点からも本訴は不適法である。仮に右主張も亦理由がないとしても、公職選挙法の規定によれば選挙公報は選挙期日前二日までに選挙権者の各世帯に配付しなければならないとありこれによれば今回の前記衆議院議員選挙においては昭和三十年二月二十五日までにその配付を終らなければならぬこととなつているので仮に原告等の本訴請求が認容されたとしても右二月二十五日までに二十数万部の選挙公報を新に印刷配付することは技術的に到底不可能であるから原告等の本訴は結局判決を求める実益を欠く結果となり、権利保護の利益を欠くものといわねばならないと述べ、本案の答弁として、原告等が来る昭和三十年二月二十七日行われる衆議院議員選挙の立候補者であること、被告委員会が原告等に対し、選挙公報掲載申請書を同月十二日午后五時までに提出するよう通知したこと、及び原告が右十二日被告委員会事務室に行き原告等主張の選挙公報掲載申請書を提出したが被告委員会がこれを受理しなかつたことは何れも認めるが、その余の事実は否認する。原告等は右申請書を右十二日午后五時二分過ぎに提出したもので、選挙公報掲載申請書の提出期限経過後であつたから被告委員会は右申請書を受理しなかつたものである。右当日における午后五時の確認は被告委員会の書記が被告委員会事務室備付のラヂオの午后五時の時報によりなしたもので右時報直後右事務室の廊下に出て届出者のないことをも確認しているのである。而も被告委員会は選挙公報掲載申請書の提出期限におくれることのないよう原告三浦選挙事務所に対し昭和三十年二月十日及び同月十二日の午前中又日本共産党秋田支部に対し、同月十日及び同月十二日午前十時頃、同十二日午后四時十五分頃の数回にわたり夫々電話をもつて督促注意しておいたのに拘らず、原告等はあえて前記提出期日を徒過したものであつて、これにより生ずる結果は挙げて原告等自身の責に帰すべきものである。公職選挙法に規定される選挙の管理執行に関する手続規定はその性質上公平、厳格、画一的に解釈し守らなければならないが、殊に本件においては提出期限が午后五時であるということが法律に明定されているからその間に自由裁量の余地は全くない。以上のとおりであるから原告等の本訴請求は失当であると述べた。

理由

よつて按ずるに公職選挙法の規定の全体の趣旨に照らせば衆議院議員の選挙に関しては同法所定の第十五章争訟の項の規定によりその選挙の効力又は当選の効力に関してのみ異議訴願、又は訴訟を提起することができるのであつて当該選挙施行前の過程における個々の処分は独立した争訟の対象となるのではなく、ただ前示選挙の効力又は当選の効力に関する争訟において、選挙又は当選無効の原因として主張することができるにすぎないものと解するを相当とする。されば原告等の本訴は選挙施行前の過程における手続の違法を独立した争訟の対象としていることは原告等の主張自体明らかであつて、前記の理由により法律上許されないのであるから原告等の本訴は不適法として却下すべきものである。

よつて爾余の点に関する判断を省略し、民事訴訟法第八十九条、第九十三条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 小島彌作 小友末知 駿河啓男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例